取締役会にはもちろん出席しますが、社長の面子をつぶすような厳しい意見や質問は控えるのが常識です。
ある上場企業で取締役に就任した部長に気分を聞いてみました。
「いや、変わらないね。
給料が若干上がったけれど、車はつかないし、部屋もない。
仕事は今まで通りだから、どう変わったかと尋ねられても、変わりようがない」との返事でした。
中には「いやあ、業績が悪いので役員賞与はないし、株主代表訴訟をいつ食らうか心配だ」と言う人もいます。
しかし取締役になって嬉しくないかと言えば、嬉しいに決まっています。
昔のようにボーナスがぐんと増えて年収が大幅に上がるわけでもないし、法律上、任期は最長二年、会社によっては一年ですから身分は不安定なのですが、「取締役」は多くのサラリーマンにとって出世のゴールです。
取締役候補に内定したと告げられて断ったサラリーマンはまずいないでしょう。
普通の会社では、社内から本来の意味での取締役が生まれるのはどだい無理な話なのです。
社長の部下である管理職が昇格するわけですから、取締役になっても部下であることに変わりはありません。
取締役は取締役会に参加して代表取締役である社長を監督する、平たく言えば社長を取り締まるのが重要な仕事です。
しかし実態は逆に“取り締まられ役”でしょう。
さらに取締役も階層化されています。
副社長、専務、常務、そして「平取締役」となっています。
この「平取締役」という言い方も妙です。
どこか平社員に似た響きがします。
本来、取締役に格上も格下もないはずですから、平取締役という呼び方はおかしいのですが、中小企業でも副社長や専務がいますから、どうしてもヒラができてしまいます。
取締役就任は一応のゴールですが、まだ先があるわけです。
次は常務のイスを目指し、さらに専務を狙う。
ダメならば、よい関連会社の社長に目標を変えるという具合に、取締役になっても昇進競争で気が抜けません。
そのために人事権を握る社長に嫌われないように注意する必要があります。
G氏が「日本の会社では取締役と言っても、社長の部下として仕事をする人……」と言っているのは、こうした実態を指しているのです。
副社長と言うと、だいぶ偉いように聞こえますが、ワンマン社長として八十五歳で亡くなるまで現役を通した帝人のO社長は面白いことを言っています。
「社長と副社長の間は、副社長と守衛との間よりも遠い」と。
確かに役員人事でも何でも決められる社長と副社長とでは大変な違いがあります。
肩書乱発 しかしその社長の重みも昔と比べるとだいぶ軽くなってきました。
実力社長が退任すると実力会長になり、さらに代表取締役相談役や代表取締役相談役名誉会長などになって、実権を手放さないケースが増えたためです。
最近は、米国に倣って会長兼最高経営責任者(CEO)に就くのが流行っています。
米大企業の会長兼CEOは絶大な権力を握っています。
取締役会の議長と執行役員のボスと二役を兼ねるわけですから、最高権力者です。
日本の会社には本来、CEOはありませんでした。
米国とは経営組織が違いますから当然です。
チーフ‐エグゼクティブ‐オフィサーとは、直訳すれば執行役員長です。
オフィサーつまり執行役員がいなければ、CEOもいるはずがないのです。
しかし会社で誰が一番の実力者なのか明示するために、CEOという役職をわざわざ設けて、名刺に刷り込んでいる例がよくあります。
「外国人にはわかりやすいから」と言いますが、昔は、取締役全員が執行役員のように稼ぐ仕事をしていましたから、社長がいわばCEOに相当しました。
「CEO」という肩書を付け加えなくても、昔の会社は非常にシンプルな役員体制だったので、何も問題はありませんでした。
四十−五十年前は大会社でも、会長は少なく、まして相談役や顧問、名誉会長などはいないのが普通でした。
それがいつの間にか増殖したのです。
自分を取り立ててくれた前社長を処遇するために会長をまず置きました。
自分が社長を後輩に譲る時、会長にイスをあけてもらわなければならないので、相談役を作るという具合に、肩書がどんどん増えていったのです。
貢献大の先輩には「名誉会長」や「特別顧問」などの肩書を進呈します。
社長が人事を行うと言っても、先輩の処遇には神経を使います。
会長がいる場合、自分の進退も勝手に決めるわけにはいきません。
根回しせずに、「今期で社長を退任します」と会長に言ったら、角が立つ場合があります。
「私は相談役になりますので、会長はそのままで」と言っても、会長は「オレに早く辞めろ」と言いたいための嫌味かと勘ぐるかもしれません。
実際、そんな気苦労を某社の社長から聞かされたことがあります。
人数が多すぎて機能しない取締役会 上が上なら下も下で、取締役の数も高度成長期からバブル経済にかけて増えました。
社長がよくやってくれた部下を処遇するためのポストとして「取締役」を利用したためです。
自然と増えていきましたが、それでもさばききれませんから、取締役になれない人を救済するために関連会社を増やしました。
大手企業では取締役の数が五十人くらい当たり前だった時期もありました。
M銀行とT銀行が合併してできたM銀行では、一時六十八人もいたことがあります。
普通の役員会議室のテーブルでは席が足りず、外側にもう一列囲むように席を設けたほどです。
これでは小中学校でも教室に入りきれません。
ポスト不足のために、いろいろと新しい管理職のポストや管理職と同格の専門職を作ったのと、事情は同じです。
部長の次に副部長が何人かいて、さらに次長がいて主任部員がいてと、誰が一番上位なのか複雑すぎてわからない企業が少し前までよくありました。
処遇のためにポストを増やすのは本末転倒ですが、社内の平和のためには便利な方法でした。
取締役の数が過剰になるのは管理職と基本的に同じ理由ですから、社員の延長でしがないことを物語っています。
取締役の数が四十−五十人にもなっては、突っ込んだ議論は成り立ちません。
一人ずつ三分間話をしたら、五十人いれば、それだけで二時間半もかかってしまいます。
議論しないことを前提にした人数と見られても仕方がないでしょう。
こうなると取締役会は完全に機能停止です。
そこで一定の役付き役員だけによる経営会議や常務会などを設けて、そこで実質的な審議をする企業が増えました。
しかしバブル経済が弾けて業績が下向くと、さすがに反省機運が生まれ「取締役会の活性化」が経営課題になってきました。
これに真っ先に取り組み、思い切った改革を実行したのはS社でした。
九七年六月の「執行役員制」の導入がそれで、産業界に波紋を広げ、経営機構改革の口火を切る格好になりました。
O会長、D社長以下三十八人いた取締役を一気に十人に減らして、取締役から外れた十八人を含めて二十七人の執行役員を新たに設けたのです。
また取締役十人のうち三人を社外取締役にしたのも注目すべき点でした。
要は、取締役は少人数でとことん議論して長期的な戦略の決定に集中し、その戦略に基づいて実際の業務を執行役員が遂行するという分業体制に転換したのです。
社内取締役七人は全員が代表取締役で執行役員を兼務する体制をとりましたので、社外取締役がチェック役として重要な役割を担いました。
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